元占い師のブログ

変な話、怖い話、時々実体験。基本的に知人、友人、仕事で出会った人から話を収集しています。

空っぽの祠

今から十五年くらい前にネットの知人から聞いた話。いつの間にかネットから消えてしまった彼女のことはたまに思い出す。彼女とスカイプで通話していた時に出た話。

 

彼女の実家というのがかなりの田舎にあったのだが(村だったか島だったか思い出せない)家の近くに祠があった。祠と言っても御神体なんかは入っていなくて空っぽ、しめ縄なんかもない。誰も掃除なんかせず、周りの植物に飲まれそうになっていて、そもそも今回話す一件が起きるまで「祠」という認識もなかったという。

 

ある時近所にある女性が越して来た。三十代くらいで田舎では浮く感じの目鼻立ちのくっきりした女性だったらしい。なんでも元々そこに住んでいたお婆さんの親戚かなんかで、お婆さんの死後、誰も住まずにいたその家に越して来たとか。その女性がなかなか快活な人で、地元の人も最初はよそよそしかったものの、すぐに打ち解けた様だった。ちなみにこの話を語った知人はその女性のことが得意じゃなかったらしい。元気の押し売り的な意味合いで。

 

その越して来た女性は自分の家の周りだけじゃなく、甲斐甲斐しく地域のゴミ拾いをしたり、掃除をしたりなんてしていたらしいのだが、その一環で祠の周りの植物を刈り取って、祠自体も綺麗に掃除した。そしてそこに果物やらお菓子やらをお供えし始めた。祠が綺麗になって物が供えられ出すと、他の人もそこに物を供えるのか、お供えはどんどんと増えていって、そんな清らかな心がこの腐った様な田舎にもあるのかと、彼女はその時は関心したと話した。

 

祠は御神体のないまま豊かになっていった。しかし反面、この祠を復活させた当人である女性はみるみる痩せていった。頬はこけ、元々大きかった目はそこだけ浮き出た様に目立った。その痩せ方は周囲の人が心配になるレベルで、地元の人が声を掛けたこともあったが、「大丈夫大丈夫、ちょうど痩せたかったし」と跳ね除けられてしまったという。結局、女性は暫くして倒れてしまい、親戚のもとで療養を余儀なくされ、町から出ていった。

 

後から聞いた話では、町の人はお供えなんかしなかったという。ただせっせと祠に物を供える女性を目撃したという話が、その女性が引っ越してから少しずつ顕になった。増えていくお供えは彼女一人の供えたものだったのだ。住民たちは気持ちよく挨拶をして町を掃除する彼女に笑顔を見せつつ、陰では気味が悪いと監視していたらしかった。

「本人がいる時は良い顔しておいて、いなくなったら、あの人気味悪かったね、良かった出ていって、みたいに話しててさ、ほんと地元のああいう感じ気色悪いわ。出られてせいせいしてるよ」と彼女は言った。

 

女性の体調不良と祠の掃除に因果関係があったのかは分からない。そもそも精神的に弱っていたが故に田舎に越して来て、もしかしたら風水なんぞにハマっていて掃除を率先してやっていた結果、祠に依存してしまったというケースも考えられる。

逆にもしそうではなくて、本当に体調不良と祠とに因果関係があった場合も考えてみると、彼女が祀ってしまったのはなんだったのだろうか。それも情報提供者がいなくなってしまった今では調べようもない。

 

この話から私が学べることは「掃除をすることは良いこと」「開運の鍵は掃除」という言葉を鵜呑みしてしまうのも考えものということ。「掃除=良いこと」というのがごく一般的なイメージだと思う。しかし何事にも「過ぎる」がある。

試着室には誰がいた?

以前リサイクルショップでアルバイトをしていた時に、他店のスタッフから聞いた話。

彼女がその店に勤め始めて一年、学生バイトが急に休んで店長と二人で営業をしていた日の夜のこと。

 

閉店10分前。閉店のBGMが掛かる中、外に出していたのぼりやカートを下げ、掃除も終わり、店内に客がいるかを確かめるために巡回をしていた。すると二つある試着室の内、南側の試着室のカーテンが閉じていた。カーテンの前には劣化の著しい剥げたパンプスが置いてある。

「もう間もなく閉店です」

カーテン越しに、彼女がそう声を掛けると、

「そうですか」

と女性の声が返ってきた。パンプスの状態から言って少々厄介そうな気もしたという。長引かないと良いけど、と思いながら巡回を続けるが他に客はいない。店長に「一人試着室にいます」と告げ、洗濯した商品クリーニング用のウエスを干す。しかし干し終わっても女性がレジに来る様子や退店する様子が見られない。ウエスを干しているカウンターからはどちらも目に入る。入退店時は自動ドア上部のセンサーから効果音も鳴る。見逃すわけはない。閉店時刻。閉店時間を知らない客や図々しい客の入店を防ぐ為、自動ドアのスイッチを切り、鍵は閉めず閉店の札を掛ける。試着室に向かう。やはりパンプスはまだ試着室の前に鎮座している。

「お客様、閉店時間です」

しかし今度は返事がない。もしかして倒れてるとか?

「お客様、大丈夫ですか?」

応答なし。カウンターに戻り店長に報告する。

「一緒に行くよ」

店長を伴い、再度声を掛けるが相変わらず返事はない。店長が男性ということもあり少し離れて待機、彼女がカーテンに手を掛ける。

「失礼します」

サッとカーテンを引く。彼女は自分の目を疑った。そこには誰もいなかったのだ。商品の古着が数点鏡の前に落ちているだけ。まるで試着をしていた客だけパッと消えてしまったような具合だったらしい。

「なんだ、誰も居ないじゃない」

と店長は呆れた声を出す。しかし試着室の前には靴がある。

「履き替えて店の靴盗まれたんじゃないの?」

一理ある。しかし試着室内の人物とやり取りをしてから自動ドアのベルは鳴っていない。その旨を伝えて、

「もしかしてまだ店内にいるとか?」

と言うと店長はぎょっとしてから、露骨に嫌な顔をした。二人で店内を見て回るがやはり誰もいない。なんとなく気持ちが悪いまま閉店する羽目になった。

 

この話を聞いて「客が忽然と消えるブティック」という超有名なもはや古典とも言える都市伝説を思い出すが、あれは店側が黒幕で人身売買をしていた説や、そもそもその説自体ブティックを経営していたのがユダヤ人だった為に嫌がらせとして流布されたなんて説もある。もし今回試着室内とのやり取りがなければ、店長の言う通り万引きの線が濃いと判断されたに違いない。「そうですか」と答えた女性は何処に行ってしまったのだろう。

突き飛ばす霊

職場の後輩から聞いた話。

彼女が以前みなとみらいで仕事をしていた時のこと。

美術館前の通り。早朝の車通りが少ない時間は横断歩道まで行くことを億劫に思った人たちが、そこの車道を横断することが多かった。彼女もその一人だった。

その日も左右を確認し、小走りで車道四車線を横断した。中程まで行った時だ。突然強い力で突き飛ばされた。横方向に転がされ半身をアスファルトにしたたか打ち付ける。突然の衝撃と激痛に混乱しながらも、顔を上げて周りを見るが誰もいない。痛む腰を上げ、なんとか歩道まで進む。コートは無惨にも破れてしまっていた。なんだったんだろう。そう思いながら職場でその話をすると「自分もそういうことがあった」という声が二、三あがる。

その職場に強い霊感を持つ元巫女という人物がいたらしいのだが、彼女曰く「あそこは霊の通り道」だと言う。あまり良くないことになっているらしく、知り合いと二人で対処を試みたが歯が立たなかったらしい。

この話を聞いて検索してみたが、該当する様な話はヒットしなかった。マイナーな心霊スポットと言える。

占い師と霊能者

これは怪談とか奇談の類というよりも、実際に自分が占いをやっていて不思議だったことの一つなのだが。

占いをやっていると客も色々で、来たは良いものの相談ごとが無かったり、逆に「それは弁護士や医者の領分では…?(白目)」みたいなあまりにも重い相談を持ってくる人もいる。そんな色々の中で、占いフリークの極地みたいな人も時々やってくる。相談事があるから来てるんじゃなくて、占いそのものにハマりすぎて用もないのにあちこちに出向いてはお金を落としている様な人達だ。で、そういう人は大抵「霊能者」のもとにも行ったことがある。私は霊感があるという人物にはよくよく会うが、霊能者を名乗る人には会ったことがない。好奇心で霊能者とはどんな感じなのかを尋ねてみるとこれが案外生年月日や出生地、血液型まで聞くような人もいるとか。それは占いでは?と思うものの、ここで野暮なことを突く気はない。

そういった体験談について聞いていると、ごく稀に何の情報も与えていないのに個人的なことを言い当ててくる霊能者がいるという。相談者が有名人であったり、予約する時に個人情報を打ち込んでいるならホットリーディング(前もって相手の情報を調べておいてあたかも霊視で見えたように思わせるテクニック)も出来ようが、飛び込みの客でも当たるというんだから驚く。

さて、ここからが本題なのだが、私はプロフィールにもある通り霊感は全くと言って良いほどない。霊体験もないしも予知夢も見ない。出来るのはあくまで勉強で学べる程度の占星術、タロット、周易、夢占いを使って、示されたシンボルを見て「こういう解釈が出来る」と伝えるだけだ。占い師をやっていた時からこれは公言し続けている。

その私の占いの結果を聞いて、過去に三人「霊能者と同じことを言っている」という客たちがいた。その霊能者のうち二人は、なんの情報もなく言い当ててくるタイプの霊能者だという。

これが霊能者が似非霊能者、単純に学んだタイプの占い師というかペテン師で人相か、或いは体癖(野口晴哉が提唱した身体の重心やねじれの癖から推察する性格分類)なんかを用いているのなら、私の読みと一致するのも分かるのだが、もしそうじゃなくて、本当に霊能力だった場合を考えてみるとどうだろう。

占いと霊能力の結果が同じというのは、面白いと思う反面何処かがっかりしてしまう自分がいる。全くの素人が四年ほど勉強して、霊能者と同じことを言えてしまったらまるでロマンがない。

それか占いを降霊術の一種と捉えれば、霊視と同じ結果を弾き出すとも言えるのか。それにしたって数年の勉強で出来るんだとしたらそれもそれで空恐ろしい話だ。

こっくりさんを引き合いに出してみる。あれも一種の降霊術と言われているが、あれなんて遊びどころか、形式を用いれば遊び半分で子供が出来るという代物だ。

そう考えると、こっくりさんにせよ占いにせよ、簡単なようで実に恐ろしいことをしている可能性があるって話になる。

 

私が占い師を辞めたエピソードについてもいつか書くかもしれない。

峠のカーブで

以前職場のパートさんから聞いた話。

彼女が10代の頃の事。その夜、彼女は地元の峠道をスクーターで走っていた。車通りが少なく、慣れた道だ。用事で急いでいたこともあって飛ばし気味だったという。その慣れが命取りになった。急カーブでハンドル操作を誤り、タイヤが滑る。スクーターは横転、彼女の身は対向車線へと投げ出された。身体的衝撃と精神的衝撃が同時に襲って来て呼吸も上手くできない。早く動かなきゃと思うが身体がいうことを聞かない。その直後、2つのライトに目が眩む。車が来たのだ。声も出せなかった。ただ目を瞑りその場に伏せるのがやっとだった。しかし、来るはずの衝撃がやってこない。それどころか、何の音もしない。恐る恐る頭を上げ、瞼を開く。そこが真っ白とか別世界なら「ああ、死んだのか」と思ったろう。しかし目の前に広がった世界は、先程のそれと何ら変わらない。峠道、急カーブ、転がった愛車、擦り傷の痛々しい手。さっきの車は何処に消えたんだ。スクーターと自分が転がっていたのだ。この狭いカーブで車が避けられるわけはない。意味が分からなかった。しかし悠長にしている暇はない。徐々に冷静になった頭に従い、スクーターを起こして傍に避け、動作を確認する。スクーターも大きな擦り傷が出来てしまったが、動作は問題なさそうだった。身体も四肢の擦り傷だけで、頭は打たなかったし、骨折もなかった。その日は大人しく帰ることにした。

 

数日後、彼女は行きつけの美容院に行った。すると顔馴染みの美容師さんが、彼女の手を見て「あれ、怪我したの?」と言った。事故の時の傷が生々しいかさぶたになっている。

「実は…」

彼女は峠で転んだことを話した。勿論、対向車線で見た幻覚(?)については伏せた。すると美容師さんは言った。

「いやぁ生きててよかったね。ついこの前だよ、同じ様にあそこの道で横転して、対向車に轢かれちゃった子がいてさ。同じくらいの歳の子じゃなかったかな」

 

彼女があの対向車線で見たのは、その亡くなった子が最期に見た景色なのかもしれない。或いは、ある種の死者からの警告だったのか。

噂好きのAさん

以前の職場で先輩から聞いた話。

その職場、とある小売店なのだがバイトも社員も話好きで、中でもAさんは噂話に目がなかった。その噂好きは社内のネタに限らず、町で起きたこと、芸能ニュース、オカルト的な噂まで多岐に渡っていた。彼女が口が軽いのは周知の事実なので、それも込みで仲良くしている人が多かったという。

ある時先輩が試しに嘘の噂をAさんに聞かせたことがあった。

「地元の〇〇山に幽霊が出る」

Aさんは「聞いたことない!」と大層面白がった。暫くして〇〇山に幽霊が出ると噂が立ち、若者が肝試しに行く様になって、近隣住民が騒音やゴミや迷惑しているという話が出始めた。先輩がでっちあげた噂なだけに、広めたのはAさんで間違いない。その時は噂好き恐るべし、と感じたそうだ。

 

また暫くして、今度はAさん、

「芸能人の〇〇、不倫だってね」

と朝っぱらからはしゃいでいた。

「〇〇にそんなイメージねぇよ」と言ってみんなで検索する。しかしそんな報道は一つもない。勘違い乙、と片付くはずだったが、その日の午後、ネットニュースで〇〇の不倫報道が流れるのを目にした。

「マスコミを追い越すとかどうなってんの」とみんなで笑ったそうだ。田舎の民も巡り巡って芸能人と繋がりがある。それくらいの感覚だったという。

 

ある日Aさんが珍しく落ち込んだ様子で出勤してきたので、スタッフで心配していると、

「常連の〇〇さんいるでしょ、亡くなっちゃったって」

〇〇さんは年配の男性で、身寄りもなく、ほぼ話し相手を求めて来店している節があった。社員なんかは時間を取られる為に煙たがっていたが、Aさんはよく楽しそうに談笑していた。他のスタッフも顔を合わせる頻度が高いだけに幾らかのショックを受けていた。しかし翌日、その〇〇さんが何気ない様子で店に来てAさんは悲鳴を上げた。〇〇さんは驚いていたが、ことの顛末を聞くと「勝手に殺さんでくれ」と笑ったそうだ。

「ガセ情報じゃねーかよ」

「確かに聞いたんだけどな」

「誰から?」

「ん?あれ?誰だっけ。でも絶対聞いたんだ」

それから一ヶ月くらいして〇〇さんが店に顔を出さなくなった。

「ほんとに亡くなっちゃったんじゃないの?」

「いやいやいや」

Aさんが得意な情報網を当たるとすぐに結果は明らかになった。〇〇さんは本当に亡くなっていた。

 

Aさんは〇〇さんが亡くなって、ちょっとしたバイトを辞めたらしい。一度先輩がメールしてみたが、送信できませんでした、という通知が来た。

 

「当時あんまりネタに出来る雰囲気じゃあなかったけど、今思うと、あれは噂好き過ぎて、なんか変なのとも通じちゃってたんじゃないかな。変なのって、まぁ幽霊とか妖怪とか、神様とか宇宙とか。分からんけど」

と先輩は語る。

 

幽霊は時間に縛られない、という話がある。もしかしたらAさんは、そういった時間に縛られない存在から、少し未来の噂を聞いていたのかもしれない。

プールの子

同級生から聞いた話。

彼が小学3年生の頃の夏休み。一人で市民体育館にある屋内プールを利用していた時のことだ。人もまばらなプールであまり上手くないクロール上達を目指して気ままに練習していると、誰かにぶつかってしまい、咄嗟に謝ろうと口を開くが水がぶくぶくと音を立てるだけで声にならない。少し水を飲んだ。咳込みながら身体を立て直してなんとか立つと、そこには女の子が立っていた。スクール水着に水泳帽、ゴーグルをつけている。

「気をつけてよ」と言われ「ごめんなさい」と改めて頭を下げる。

「何処の子?」

尖った声に少々ビクつく。自分より背が高い。上級生かもしれない。これは目をつけられたかもしれない、と我ながらビビリを発揮していたと彼は振り返る。

「O小学校の3年…」と声がつい小さくなる。

「聞こえないんだけど」と彼女は鼻で笑う様に、同時に呆れる様に言った。

少し張って同じ言葉を繰り返した。

「なんだ、同じ学校じゃん。私は4年」

大人になると一才差なんて誤差の感覚だが、なぜあの頃の一才はあれほど大きく違う様に思ったのか。

「何て名前?」

素直に名乗る。

「ふーん。私は…」

彼女は珍しい苗字で、一回じゃ聞き取れなくて、胸元の文字も読めなくて、もう一度訊ねると顔に水を掛けられた。そのままなんとなく一緒に泳ぐ流れに持っていかれ、気付けば夕方になり、プールに居たのは彼とその少女、そして監視員のお姉さん、清掃のおじさんだけだったという。

「そろそろ帰ります」

彼がそう言うと彼女は、

「私も帰る。外で待ってて」

と言った。

「どうして?」

「ジュースを飲もう」

親も心配するだろうしすぐに帰りたかったが、女の子からお誘いを受けたのは初めてでつい頷いてしまったそうだ。普段関わらない上級生女子という特別感もあった。彼女と別れシャワーを浴びると、急いで身体を拭いて服を来て更衣室を出た。プール出入口前のベンチに座って待つ。しかしなかなか出てこない。でも女子更衣室を見に行くわけにもいかない。時間ばかりが過ぎていく。やきもきしていると受付にいた女性が声を掛けてきた。

「もうすぐ保護者付き添いでないと館内を利用できない時間になるんだけど、お母さんのお迎え待ちかな?」

もう18時が近づいていた。門限の時刻でもある。彼は一緒に泳いでいた女の子を待っている旨を伝えた。すると女性は「分かった、ちょっと待っててね」と言って更衣室に入っていき、少しして戻ってきた。

「ごめんね、誰もいないみたい」

彼はこういうのも恥ずかしいが、かなり急いで出て来たので男子の自分より女子の彼女の方が身支度が早いというのは到底考え難いと思った。

「そんなはずは…」と話していると監視員をしていたお姉さんが更衣室から出て来た。受付の女性が「女の子なんていないよね?」と訊ねる。

「いませんね」

受付の女性が彼の事情を代わりに話してくれる。すると監視員のお姉さんは苦笑いを浮かべて「今日君くらいの年齢の女の子は利用していなかったと思うよ。君、一人で来なかったっけ?」

確かに来た時は一人だった。

「一人で泳いでた気がするんだけど」

とお姉さんが彼を見つめる。その目線にはいくらかの疑いが含まれている様な気がして居心地が悪かったそうだ。それを見かねた受付の女性が「きっと先に帰っちゃったんだね。かわいそうに」と慰めにかかる。却って惨めになり、頭を下げると施設を後にして帰路についた。

夏休みが終わり、あの時門限を過ぎて母親になじられたことの不満をぶつけたいが半分、もう一度会いたかったが半分で、4年生の階に行ってみた。上級生からの奇異の視線を感じながら歩き回っていると同級生木村のお兄さんに声を掛けられた。探している子の苗字を告げるが、聞いたことがないと言う。お兄さんは面白がってあちこちに訊ねて回ってくれたがあの女の子は見つからなかった。「5年生」を「4年生」に聞き間違えたんじゃ、という話になって、木村のお兄さんは後日、今度は付き合いのある5年生に訊いて回ってくれた。しかし5年生にもそんな苗字の子はいなかった。

「こうなると見つけられなきゃ悔しいよな」

と彼よりも夢中になって木村のお兄さんは動いてくれたという。教師陣や他校の付き合いにまで。しかし結局彼女を見つけることは出来なかった。

 

彼とは疎遠になってしまっているので現在は分からないが、確かその体験のせいでスクール水着フェチになってしまったとか。

彼女は本当に存在していたのか。もし存在していなかった場合、心霊現象等によって植え付けられた性癖というのはなかなか興味深いものがある。